【会員投稿】新発田野菜:新発田伝統野菜と新発田特産野菜

佐藤茂

 筆者は、2000年代初頭以降、京都府および滋賀県にある大学に勤務し、京と近江の在来野菜(伝統野菜)の研究に携わった。在来野菜は園芸分野だけでなく、「生きた文化財」として民族植物学分野の研究対象でもある。研究を始めたころ、新潟県内の事情を調べ、県内でも在来野菜の探索や栽培が進展していることや、長岡野菜や柏崎野菜などのネーミングがなされていることを知った。他方、新発田市の在来野菜は?とみると、「久保なす」のみであった。現在は、新発田市役所のHPに「新発田の農畜産物一覧」が掲載され、そのなかには8種の野菜-イチゴ(越後姫)、ネギ(やわ肌ねぎ)、アスパラガス、オクラ、ヤマイモ、ナバナ(オータムポエム)、トマト、キュウリ-が特産野菜として、久保なすとエダマメ(大峰かおり)が在来野菜としてあげられている。筆者は、これらの野菜を新発田野菜と呼び、さらに2つにわけて新発田伝統野菜(2種)と新発田特産野菜(8種)と呼ぶことを提案したい。新発田市には他に伝統野菜(在来野菜)としてサトイモがあり、特産野菜として珍しい食用ギクがある。本稿では、これらのうちから4種類の伝統野菜(在来野菜)と特産野菜を紹介する。

久保なす

 新発田市久保地区(旧豊浦町)で昭和初期から栽培されていたナスで、現在は主な生産地が新発田市五十公野地区に移っている。久保なすは中長ナスである。果皮が柔らかいため、成熟途上の幼果が小ナスとして収穫され浅漬けにされる。また大きく肥大させて煮食や焼きなすとしても食される。久保なすは、宮崎県の佐土原なすを起源とする中越地方の鉛筆なすや木崎焼きなす(または新潟焼きなす)と近縁であるとされてきた。最近、多数のナス栽培品種を材料にして遺伝解析が行われ、久保なすの起源と成立時期について従来とは異なる仮説が提案されている。この研究は、新潟県は現今のナス栽培品種の祖先種が原種から分化したセンターの1つであり、新潟県で生まれた祖先種から久保なすや佐土原なすが分化したことを示した。久保なすは新潟県に数多くあるナスの在来栽培品種の中ではマイナーな扱いを受けてきたが、栽培品種の遺伝解析の材料として大きな役割を果たした。

久保ナス 新発田市HP「新発田の農畜産物一覧」から許可を得て転載

加治川のエダマメ‘大峰かおり’

 新発田市加治川地区で古くから自家消費用として栽培されてきたエダマメ専用のダイズ栽培品種である。決まった名称はなかったがこのエダマメの普及を図って「大峰かおり」のブランドネームが商標登録されている(商標登録5310282号)。このエダマメは、6月中旬に播種され、9月下旬以降に収穫される晩生種である。草姿が大型(草丈が高く葉が大きい)で生長終了時に1~1.4 m になる。食材の特徴として、香りがよいことと大粒であることがあげられる。ブランドネームの「大峰かおり」は、香りがよいことと栽培地が櫛形山脈中の大峰山の麓にあることからつけられた。エダマメの香りは、いくつかの主要な香り成分とそれ以外に少量含まれる多くの香り成分が混じりあった結果として現れる。個々のエダマメの香りは、含まれている香り成分の種類と含量によって決まる。加治川のエダマメは抜群の香りを持つことを売りにしているが、香り成分の分析が行われている否かは不明である。

大峰かおり 新発田市HP「新発田の農畜産物一覧」から許可を得て転載

一重菊「花嫁」

 食用ギクの栽培品種である一重菊「花嫁」(商標登録5652276号)は、「かきのもと」や「阿房宮」が多重咲きであるのに対して、一重咲きのキクである。花は明るいピンク色である。一重菊「花嫁」は8倍体(通常の栽培ギクは6倍体)であるため、強健な茎をもつ草丈の高い大型の植物体を形成し、さらに花弁が厚い大型の花(花径が8 cm)を咲かせる。このため観賞用のキクとしても優れている。このキクは、2000年頃に、現新発田市二ツ山で新潟県農業総合研究所園芸研究センターが収集したもので採取地にちなんで「二ツ山一重菊」と仮称された。現在、任意法人「一重菊「花嫁」プロジェクト」(1)によって栽培・保全されており、市内の希望者にも苗が分譲されている。ただし、同プロジェクトとは無関係に名称がないまま栽培もされている。通常の食用ギクと同様に茹でて食されるほかに、花弁(舌状花)の苦味が少ないので生花弁がサラダや料理のトッピングとして使われる。花弁が大きく淡いピンク色のため料理の見映えを引き立てる効果が大きい。


(1)一番菊「花嫁」プロジェクト

一番菊「花嫁」 筆者撮影

菅谷のサトイモ‘笑み里つばさ’

 新発田市菅谷地区の下中山、上寺内、横山の集落で古くから栽培されてきたサトイモである。2018年に結成された地元の地域活性化女性グループ「ABODE菅谷」がとりあげ普及が始まった。下中山集落で細長い芋の形から「つばさ芋」と呼んでいたこと、栽培地が自然に溢れた美しい風景の山あいの里であることを表わして「笑み里つばさ」のブランドネームがつけられた。このサトイモは、サトイモの「土垂(どだれ)」品種群のなかの栽培品種「相馬土垂」に似ている。地元では200年前に福島県相馬地方から伝わったとされている。相馬土垂は、相馬地方で土垂品種群の古い系統から進化した系統で、同地方がサトイモの指定生産地であった頃(昭和47~52年)に盛んに栽培された。200年前の菅谷は新発田領ではなく黒川領(柳沢藩)であった。しかし、相馬地方から菅谷へのサトイモの伝来の経緯が、黒川領であったことと関連があるかどうかは不明である。菅谷のサトイモが、200年前に伝わった相馬土垂を起源とすると、このサトイモは東北地方の各地に伝わる土垂系統の在来品種である子姫芋(山形県寒河江市皿沼)や津市田イモ(岩手県盛岡市津市田)、伊場野イモ(宮城県大崎市三本木町伊場野)と同じほど古い貴重な在来品種であると言える。

笑み里つばさ 「ABODE菅谷」から入手

付録: 「大峰かおり」と「笑み里つばさ」を使った一品

 山形県には在来野菜のエダマメやサトイモの種類が多い。最上地方の鮭川村には「神代豆(じんだいまめ)」というエダマメがある。もともとは、農家が畦や苗代に植えていたダイズで、あぜ豆や苗代豆(なっしょまめ)と呼ばれていたが、今は「楢山(ならやま)神代豆」で商標登録(平成17年)されている。大峰かおりとよく似ていて、9月下旬~10月上旬に収穫される晩生種で草姿は大型、さやが大きく豆も大粒でともに緑色、茹でると独特の強い香と甘みがある。郷土料理に神代豆を使った「里芋のじんだんあえ」(2)がある。じんだん(宮城県ではずんだという)は、エダマメを材料にした甘い餡である。この料理にならって、「大峰かおり」と「笑み里つばさ」をつかった新発田の料理の一品ができる。

<材料(2人分)>里芋500 g (丸ごと使える小さいものがよい)、枝豆 500 g、しめじ80 g、えのき80 g、エリンギ50 g、砂糖、塩、だし汁

<手順> ➀里芋は皮をむき、塩で少しゆでてぬめりを取り、柔らかくなるまで煮る。②芋を洗い、だし汁で煮て味をつけ、最後にきのこ類を入れる。③鍋からあげて汁気を切っておく。④枝豆は塩ゆでした後、内皮を取ってすり鉢またはミキサーを使って粗引きのペーストにする。砂糖、塩で味を調える。甘めの方が良い。⑤汁気を切ったサトイモ・キノコとじんだん餡を和える。

(2)芋のじんだん和え(おいしい山形HP)

(終わり)

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